私の打つ鍼のベクトルは、限りなく痛くない方向です。しかし、たまにその逆の鍼を打つこともあります。患者さんの思いとは裏腹に、患者さんのカラダが「ひびき(深層の絡んだ筋膜に鍼先が触れてゆるめる現象)」を欲するときです。
私と同い年(63才)の書道家男性Aさん。
数メール四方の大作に挑む時は、常に中腰という一番腰に負担のかかる姿勢になります。そのため展覧会が近ずく頃は、必ず強烈な腰痛に見舞われます。先月が、そのピークの時で、週に1回ペースで、月3回こられました。
「あのの、今日は、あんまり大したことないんよ。先月は腰が痛と〜て、痛と〜て死ぬかと思たげ〜」
「あの時の顔は、ゾンビじゃったですね〜」
「ほ〜じゃった。あんたがおらなんだら、どうもこうもならんかったげ〜。あんた、1日に3人ほど診たら何とかやっていけるんじゃろ。ほじゃけんワシも、の、宣伝しちゃるけんの。絶対潰れたらいかんぞ!」
何とも、ありがたいお言葉です。このAさん、見るからにカラダが硬そうながっしりタイプです。
足はガニ股で腰の筋肉が固まっています。この様な患者さんは、足裏、足の甲の土台から始めます。
ダイオード鍼という15cmほどの棒状の鍼を箸をもつように2本持ち、足裏や足指の間の筋膜を切るように
はがします。
「痛っっっった!痛っっっったい、けど気持ちえ〜〜。痛っっっっっった。あいた〜〜〜〜
けど、気持ちえ〜〜〜、気持ちえ〜〜〜。」
ずいぶんとにぎやかです。
「あんた〜、左足がポカポカしてぬくいげ〜〜。右足とぜんぜん違う。これじゃけん、一所懸命ガマンしよんぞな!」
今度は、手の平の母指球。ここは、まず爪を使って筋膜をはがした上に、鍼を打っていきます。
「あっ、来た来た来た〜〜気持ちえ〜、ワシャの〜、カラダがゆるむん分かるんよ〜」
「ここに来る前は、また鍼刺されるん嫌じゃ〜と、思うんじゃがの。カラダが欲しとるけんの、
ついつい、来るんじゃが。来月また来ての、2月には回数券かうけんの。」
うつ伏せになってもらい、腰の張り具合をチェックし、ふくらはぎに刺して行きます。
「どしたんぞ〜〜カラダが、フニャフニャになっとるげ〜」
丁寧に実況中継してくださいます。
こんな調子で、Aさんの治療は進みます。そして、最後に
「あっあ〜〜、スッキリした〜ありがとう!」
颯爽と赤いスポーツカーで帰るAさんでした。