リードギター歴40年以上のベテランギタリストが、あじさいの杜鍼灸院で練習を始め、いつの間にか私がベースギターを弾くハメになり、「あじさいクラブ」が出来上りました。つい先日、メンバーのマネージャー兼ドラム担当のHさんが、中学高校ブラスバンド部だった女性をスカウトしてきました。
この女性は、夏目漱石研究をライフワークにしており、漱石が学習院大学教授に応募したにもかかわらず、漱石を蹴落とし教授の座を射止めた重見周吉という愛媛県今治市出身の人物を描いた本『「日本少年」重見周吉重の世界』を出版されています。重見周吉は、14歳で京都同志社に進学してキリスト教に受洗し、米国留学エール大学理学部を卒業すると、直ちに医学部へ進学しました。「日本少年」はこの時、留学を継続し、医学を修める学費稼ぎのためにコネチカット州ニューヘブンで執筆された自伝的エッセーです。
このエッセーは英語で書かれていたため彼女がそれを日本語に訳しました。それ以外にも夏目漱石との比較、新渡戸稲造の「武士道」との比較など鋭い視点で描き、当時の文化人交流の様子を徹底的に調べ上げた貴重な本となっています。この本、是非ともおすすめします!「日本少年」の中で、灸(やいと)について描かれている箇所があるので、紹介します。
『僕がいまだに否応なく思い出す最大の恐怖は、やいとの厳しい試練だ。これは日本で病を癒し回避するお家芸だ。
灸とは、もぐさでちっぽけな円錐型をいくつも作ったものを背中のそれぞれのツボに置き、前に話をした例の線香で火をつけるものだ。肉が灼かれた時どういう気持ちがするか想像してみて欲しい。僕はこの残酷な施術には断固抵抗したものだ。(中略)
ところが僕は父の部屋のしきいをまたいだ途端罪人にされてしまった。しかも疾患があってもなくても、厳しい父と母はやいとをしなさいとしょっちゅう言い張るのだった。極めつけは、父が僕をじっと押さえつけた状態で母が僕の裸の背中を灼こうとしている時、僕が苦悶をあらわにしている様子だ。
どんなことにも平常心でいるよう、落ち着かせるための手段として飴をくれるという約束を交わしていたのだけれども、このときばかりは飴も一気には効を奏しなかった。僕はけたたましい声を上げて泣き(たとえ痛みがなくても泣き続けて)、足をバタバタさせてあばれた。』
とあります。世間一般には、この火傷(やけど)をつくる恐怖の羽交締(はがいじ)めが、強烈なイメージとして浸透しているのでしょう。私は鍼灸師として、このイメージを打破をする必要性を感じており、現在、紫雲膏(しうんこう)のてんこ盛り(耳かきですくって皮膚に盛ります)にモグサを置く方法で施術しています。何とこれが好評なのです。
「先生、これは気持ちがいい、いいですね~」
この言葉を信じて、試行錯誤中です。