全国でも強豪として知られている軟式野球部のA君。
ボールを投げた時(A君は、右利き)、左の腰(骨盤の10cm程上)が、
「ブチッ」
と音がして、背骨が移動した感じ。腕を戻した時にも、同じ音がして背骨が戻ったような感覚だったそうです。凄い感性です。
病院では、炎症と診断されました。左の腰には、湿布が貼られています。炎症している時は、氷水が一番効きます。これは、師匠の今昭宏先生からの教えです。
お灸は火の力を利用しているのですから、氷水の力をお借りするのは、考えてみれば当然のことです。
A君はまだ15才。感性豊かな少年には特に効きます。氷と水を入れたビニール袋を用意します。
「A君、湿布の上に氷水の袋を置いて、突っつくけど気持ちが、ええかい?」
「ハイ!」
「気持ちええのが、のうなったら、言うてや?」
「ハイ!」
右の腰を触れると、同様の熱を感じたので、右腰に氷水袋を置いてみました。
「こっちは、気持ちええ?」
「いいえ!」
「冷たい?」
「ハイ!」
比較する事で、左腰に熱がこもっているのが分かります。しばらく、氷水袋で突いていると、
「もう、いいです!」
少年の感性は、本当に正直です。これだけで、元気をもらえます。次は、腰痛の原因探しです。
あくまで腰痛は、結果です。腰痛の原因は、足あるいは前腕だと推測します。ふくらはぎと太ももの内側に押圧。
「痛いかい?」
「いいえ!」
『・・・・?』
全く痛がりません。『これだけ、反応しないのもそうそう無いな〜〜』と感心しながら、今度は、左腰痛の同則、左前腕を押圧。
「痛い!」
ありました。
肘内側の横紋(肘窩といいます)の下に海底を泳ぐゴジラのような塊。思わず、
「ここじゃ、ここに鍼じゃ!A君、鍼は初めてかい?」
「ハイ!」
「そうか?!・・・そしたら、怖いのう〜〜?」
付き添いで来られているお母さんが、
「何でも、経験よ〜〜!」
と、ニコニコ顔。ついつい、こちらもニコニコ顔。
「あのな〜、一番細い鍼にするけんな〜」
ゴジラの心臓部めがけて、刺します。全く痛みを感じていないA君、拍子抜けの顔をしています。
しばらく鍼を上下に移動させます(これを、スズメがエサを食べるときの仕草に似ているため、雀啄
ジャクタクといいます)。
ゴジラの尻尾や腕にも刺していき、今度はお灸です。
「お灸も初めてじゃろ〜、ちょっとチクッとするけんの。」
「どうじゃ?大丈夫かい?」
「ハイ!」
初めて尽くしのA君ですが、もうすっかり安心しているようです。ゴジラが居なくなってので、今度は、ミニラ探し。左母指球の下の手首付近を泳いでいました。
そこにも、鍼とお灸。
「先生、ボールは右で投げるのに、何で左腕なんですか?」
とお母さんが、素直な質問をされました。
「バットは、左腕を使って振るんです。素振りしよる?」
「ハイ!学校ではやっています!」
正直に答えてくれるA君、家では素振りはしてないようですが、監督さんの前では、しっかり素振りをしているようです。右腕には、ゴジラもミニラもいませんでした。
バットを返す時、左手首と左肘にかなりの負荷がかかります。右腕は、添えてバットコントロールをするだけで、それほど負荷はかかりません。どうやら素振りが原因の一つようです。
ベットから起き上がってもらい、A君に、
「どうしたら、痛いの?」
「ボールをなげたら痛いです。」
「そしたら、投げる格好をしてくれる? どう?痛い?」
「ハイ、痛いです。」
「こっちに来た時の痛みが、10で、全く痛くないのが0としたら、いくつぐらい?」
「2」
「おっ、そしたら、今日は、終了!」