武道家の呼吸

60才代、剣道の達人Bさんが、今回の患者さんです。

剣道の構えは右足が前で、左手で竹刀をしっかり支えます。しかし、達人となると、一般人が考える剣道とは違う動きをする事があるようです。左足及び、左腰を前に出したり、右手で竹刀を操る練習をされるそうです。

そのため、右肘の内側と、左膝の内側に張りと痛みがあります。

ベッドで仰向けになってもらいます。やはり、左足の方が15mmほど長く、骨盤が左に傾いています。剣道の構えで踏み込む時は、左足を使うため、どうしても左重心で左足が長くなります。

こういう時は、操体法で骨盤調整します。

仰向けのまま両膝を立てもらいます。左膝の内側にある大きなコリを、左足先を上げる(背屈といいます)事で取っていき、次に両膝を左右に倒したり、左膝に軽く圧力を掛けたりして、骨盤を調整します(今回は、詳しい手技の説明は省略します)。

骨盤が整った時点で、山元式新頭鍼療法。合計9本の鍼を頭に刺し置きします。

次に、右手を全身と見立てるソマトトープ(小さな人型)。

Bさんの痛みは、右肘内側と左膝内側。これを、右手に当てはめると、右薬指の第2関節の外側と、右親指第1関節の内側に当たります。これらの個所にある圧痛点にお灸を3~5壮。

最後に、外果治療点(外くるぶしの圧痛点)3カ所と内くるぶしの圧痛点1カ所にパイオネックスを貼って終了。痛みがなくなりました。

操体法の治療中、息を吐きながら動いていただいたり、吸いながら動いていただいたりするのですが、達人となると、息を吸っているのか、吐いているのか分からなくなります。

最初は、

「はい、ゆっくり息を吐きながら、動いて下さい。」

などと言っていたのですが・・・息を吐いても吸っても同じようにお腹が動くので・・・・

「・・・息は、ゆっくり・・・」

お任せすることにしました。

「普段、息を吸いながら動くことは、あまりないのですが・・・」

「いや、打ち込む前に相手に気づかれないよう、息を吸い、一気に動く事もあります。」

武道家に呼吸法を軽々しく言えないと痛感しました。

近くで治療している私が、吸っているのか、吐いているのか分からないのですから、試合中の相手が、動きを察知するのは非常に難しいだろうと伺い知りました。

武道家の呼吸法恐るべし。