YNSA の創始者・山元敏勝先生の著書からの抜粋です。
『顔の左側に麻痺があり、左の目がつぶれない、口の左側も硬直した症状が改善した
顔面麻痺(女性 60代 主婦)
この患者さんは顔面麻痺の治療でみえました。「顔面麻痺」は顔の筋肉の働きを司っている神経にトラブルが起きることで発症する症状です。
原因は人によってさまざまですが、この患者さんの場合は、最も多いウィルスの感染によるもので、麻痺は顔の左側に起こっており、左側の目はつぶることができず、唇も左側が硬直している状態でした。そのため、来院された時には、顔が右側にややゆがんでおられました。
日南からはやや離れたところに住んでおられ、これまでにいくつかの病院で治療を受けてこられたとのことですが、全く改善が見られないということで、私のところにみえました。
普段の顔とだいぶ変化していることから、人に会うのもつらい様子で、また、目と口が思うように動かないことから、睡眠や食事、会話にも障害が起こっていました。
首診を行うと2つの内臓に関わる点に反応が見られたため、頭部のその2つの点に針を刺し治療を行いました。そして30分、針をさしたままの状態を保つと、ややこわばりが取れ、いくらか表情にも違いが見えてきました。
通院に時間がかかることから1週間に1回の治療を行いましたが、積極的に週2回来られる時もありました。
そして、8回目の治療で、目をつぶることができるまでに改善が見られたのです。患者さんはとても喜んでおられましたが、唇の硬直は残ったままで、顔のゆがみもまだ完全には改善されていませんでした。
そこで、そのまま治療を続けたところ、3ヶ月後の20回目の治療のときには、ほぼ正常の状態にまで改善がみられました。日常生活に支障がなくなったこともありますが、女性の患者さんのため、顔の変化がだいぶつらかったのでしょう。人前で普通にいられることにとても喜んでおられました。』
この患者さんのビフォーアフターの写真が、英語版の教科書に載っていましたが、その変化に驚きました。山元先生が置鍼された内蔵点は、左胆(左側の胆)と左腎(左側の腎臓)です。
写真のツボの流れでは、オレンジ色が胆(瞳子髎=どうしりょう、という目に関するツボが出発点)。茶色が膀胱(睛明=せいめい、という目に関するツボが出発点)で腎臓の表裏なので非常に理にかなっています。
また、この患者さんは、ウイルス性のものですので、ハント症候群と思われます。これは、帯状疱疹(たいじょうほうしん)のように、普段はおとなしく膝神経節(写真の指で、示しているところ)にいる水疱瘡(みずぼうそう)のウイルスが、患者さんの自己免疫力がおちてきたときに、現れて悪さをするのです。
山元先生は、これ以上詳しい治療点を紹介されていませんが、オデコにある目の感覚点、頭部正中線沿いの顔面神経点などに置鍼されたと思います。先生の症例を想像しながら紹介するのは楽しく、勉強になります。