大粒の涙、再び

先日、40才代の男性患者Aさんが来られて、ギックリ腰の痛みを9割ほど取りほぼ完治しました。そのAさんが、

「先生、息子。あれ一発で、治りました・・・翌日から練習が出来るようになりました・・・・けど、今度は、骨折してしもうて、Tクリニックに行ってます。明後日には、ギブスを外すんですけど・・・こればっかしは・・・」

「調子悪かったら、いつでも連れて来てください・・・診ますから。」

などと会話しながらも、『一発で治った・・・・やはり、デルマトーム(皮膚分節)の考え方は正しいと確信』しました。この時の様子を以前ご紹介しましたが、少し省略した形で再びご紹介します。

『スケードボードの練習をしていて、10日ほど前に左足内側を捻挫した男子小学校5年生A君、お父さんと来院されました。1週間前からは、右膝の内側も痛くなってしまいました。整形外科では骨には異常がなく、捻挫と打撲と診断されました。左足あぐらをかこうとすると痛みがあり、右膝は屈むと痛いそうです。

合谷診:左(左側を診断します)

膝診:頚椎#7~2、胸椎#2、#12、腰椎#1~6

首診:今回は診ない

置鍼2本のみ

小学5年生で、鍼治療が初めて・・・・まず、泣くことは覚悟で一発勝負にかけるか・・・・・見つけた足の治療点にてい鍼の押圧とお灸で、泣くことを避けるか・・・・・。

左右共に、腰椎4番のデルマトーム(皮膚分節)に関係があるので、2本の置鍼で終了することを念頭に入れ、A君には、荒治療ですが、左右の耳とこめかみ付近にある治療点に2本置鍼することにしました。

「痛い!痛い!・・・・お父さん痛い・・・」

何と、非情な鍼灸師!しかし、ここで心を鬼にして、治さなければ・・・・・「ゴメン!」

A君は大粒の涙をポロポロ流して・・・・私の息子に似ているので余計に、感情移入してしまって・・・

「左足首・・・どう?」

「・・・・・痛くない。」

「もう一回しっかりやってみ?」とお父さん。

「痛ない!」

「右の膝は、どう?」

「・・・・痛くない!」

急に笑顔になるA君を見ると、息子がニコッと笑った気がして・・・・ついつい感情移入。この2本で本日の治療は終了ですが、お灸で治療する方法も紹介するため、2壮ほど熱くないお灸を体験してもらいました。改めてデルマトーム(皮膚分節)の威力を感じた治療でした。足首と膝の痛みから解放されたA君の背中をさすりながら、

「よう頑張ったな!またいつでもおいでよ!」

「はい!」

めでたしめでたし。』

国家試験

今月26日には、鍼灸師の国家試験があります。私が受験したのが平成24年ですから11年前になります。簡単に国家試験といいますが、それはそれは、厳しい試験でした。

医療概論(医学史を除く。)、衛生学・公衆衛生学、関係法規、解剖学、生理学、病理学概論、臨床医学総論、臨床医学各論、リハビリテーション医学、東洋医学概論、経絡経穴概論、はり理論及び東洋医学臨床論

上記のように12科目中、西洋医学が9科目もあるのです。多くの方々は、鍼灸師だから東洋医学ばかり勉強するように思われているようですが、逆です。テストの量も西洋医学の方が多くなっています。のんべんだらりと勉強していると、国家試験には受かりません。私の場合は、早朝学校(東京医療専門学校)に行き、休憩所で一人勉強していたのですが、徐々に仲間が増え始め、みんなで情報交換する勉強会へと発展していきました。

あの勉強会で国家試験に受かったと、今になって思います。専門学校には18才から定年過ぎた人まで色々な人々が集まってくるので、楽しい3年間を過ごすことができました。大学と専門学校を経験した私、どちらが勉強したか?と冷静に考えると、圧倒的に専門学校でした。それくらい、国家試験という壁が巨大にそびえていたのです。

ところが、国家試験に受かることは序の口であることが分かるのです。鍼灸をこれからどのように展開していくのか・・・・幸い、私は山元式新頭鍼療法(YNSA)という道を選ぶことが出来、私なりに歩んでいます。これからも、患者さんの感覚を頼りに少しずつ進んでいこうと思います。

飽食・美食が意味するもの

今回も、久間英一郎博士のコラムをご紹介します。何故、飽食・美食が人、文明を崩壊させるのか、を明確に書かれておられます。戦後80年近く、徐々に西欧化された日本で、食事の見直しが急務です。その理由がよく分かるのでお読みいただければ、ありがたいです。

『新型コロナウィルスに関しては様々な識者が様々に見解を出していますが、本誌に何度も登場していただいています石原結實先生が「ザ・フナイ」(5月号)に「新型肺炎の本当の原因はコロナウィルスではない!?」と題した大変興味深い投稿をされていますのでご紹介します。

「確かに直接の病原体は『新型コロナウィルス』ではあるが、実は本当の原因は別にある。...その背景には過食(食べ過ぎ)と運動不足がある」と指摘します。

その代表的な例として、古代ローマ帝国では何度となく疫病(ペスト、痘瘡など)に苦しめられ、最悪時には一日5千人から1万人の死者が出たという。彼らの食生活はというと「哲学者セネカが『ローマ人は食べるために吐き、吐くために食べている』と喝破しているがごとく、宴会により満腹であっても鳥の羽で咽をくすぐって吐き、また次の2つ3つの宴会に向かったという。

米国ミネソタ大学のマレイ博士の論文にも、エチオピアの遊牧民に飢饉の時、食糧の供給が行なわれると、マラリアなどの感染症が突然起こった例、中世イギリスにおける痘瘡は貧しい人々より金持ちの人々をより苦しめた例、第一次世界大戦中に発生したインフルエンザにおいては、充分に栄養が行き渡っている人々に最大の死亡率が示された例が紹介されています。

これらの事実を基に博士は「栄養過多が様々な感染症を誘発する」と結論づけています。

今回、新型コロナ肺炎の発生源である中国もまた、石原先生によると(急激な経済発展による)飽食・美食に原因があると指摘しています。

20世紀の米国のガン・心臓病の激増もまた「食べ過ぎ・運動不足」が原因で、このままでは「米国が亡びる」との危惧から有名な「マクガバン報告」に繋がり、現代ではかなりの低下傾向を見せているのは記憶に新しい所です。

ここまでくると筆者が次に何を言いたいかおわかりでしょう。我国では、戦後急激な「食の欧米化」によって「食べ過ぎ、運動不足の蔓延とともに、ガン・心臓病などの生活習慣病が激増し、国民の医療費がなんと50兆円。約4割が税金とすれば毎年20兆円の税金が支払われていることに。しかもこれが毎年1兆円ずつ増えているという。

そこで筆者は10数年前から「食の改善による医療費半減」を目指し、全国講演会を始めた次第です。

石原先生のもう一つの指摘は、病気(疫病)は、「その時代の社会状況を反映している」だけでなく、「その時々の文明を終焉させ、次の文明を築くスタートになることも多い」ということです。

ならば、今こそ私たちはコロナ禍の苦労の中から病気の本質を学び、日本人に合わない欧米食文明を終焉させる必要があります。そうしないとコロナでの苦労が報われないのです。では、「食べ過ぎ、飽食、美食」のどこが良くないかを説明しなければなりません。

結論から申し上げますと、食べ過ぎ(動物性脂肪、タンパク質)は、*「腸内フローラ」を悪化させ、血液を汚し、これが免疫の低下、体質の悪化へと繋がるからです。食べた物は常に都合よく血となり肉となるとは限らないのです。量と質によっては容易に毒となり、自家中毒(自滅)を招き、細菌やウィルスの侵入を許す所となり得るのです。

これに対し、日本の伝統食は、ビタミン、ミネラル、食物繊維などが多く*「腸内フローラ」が最も喜ぶ食物なのです。

メディアでは「免疫」という言葉が踊っていますが、免疫の本質や由来についての説明はほとんどありません。

この免疫の実体は白血球であり、その白血球は、国際自然医学会の森下敬一博士によると赤血球から醸成されると言います。

つまり平たく言えば、食物は腸で赤血球となり、赤血球から白血球が生まれ、これが免疫をつくるのです。ですからコロナに捕まらない、病気にならないためには、食→腸(赤血球)→白血球(免疫)この一連の流れを健全にすること。そのためには食を変えるしかないことに気づかれると思います。

コロナ禍を伝統食復権のテコとしましょう。皆様お元気で!』

*『腸内フローラとは、腸内に生息している細菌のことです。

私たちの腸内にはさまざまな細菌が1つの種類ごとに塊を形成して存在しており、その形態がお花畑(フローラ)のように見えることから“腸内フローラ”という名前が付きました。医学的には“腸内細菌叢そう”と呼ばれます。

腸内に生息する細菌は1,000種類以上存在しており、どの種類の細菌がどのような割合で存在するかは個人差が大きいとされています。腸内の細菌は大きく分けて“善玉菌”・“悪玉菌”・“日和見菌”の3種あり、善玉菌は腸内環境を整え、悪玉菌は毒性物質を作り出して腸内環境を悪化させるはたらきを持ちます。一方、日和見菌は善玉菌・悪玉菌の多いほうと同じはたらきをする細菌です。そのため、善玉菌が減少すると腸内環境は悪化してさまざまな病気を引き起こす可能性があります。』

99%は、遺伝子組み換えの小麦

非常に興味深い文献に出会いましたので、ご紹介します。アメリカの地方都市に行き、肥満が当たり前の光景を目の当たりにするのですが、この論文を読むと納得できます。また、コロナ禍でアメリカ人の犠牲者が極端に多かった理由もわかります。今一度、日本の伝統食を見直してもいいのでは、ないでしょうか?

『その106.コロナ禍を伝統食(和食)復権のテコとせよ!②

生理学博士 久間英一郎

現在のコロナ対策は、マスク、手洗い、三密回避、換気に要約されるかと思います。その"ココロ"は「ウイルスを体内に侵入させない」こと。つまりは、"敵は外にあり"という思想です。

筆者は、長年「食と生活習慣病」をテーマに研究してきた経験から、生活習慣病のほとんどは食生活の間違いによって引き起こされた"自滅病"であることを学びました。つまり"敵は我(内)にあり"だったのです。この立場から、もう一つのコロナ対策を考えてみたいと思います。

まずは、遺伝子組み換え小麦とコロナとの関係について。遺伝子組み換え小麦については昨年、小誌(その100)に書きましたが、復習すると、今日、世界の小麦生産の99%は遺伝子組み換えという。なぜかと言うと、生産量が100年前の約10倍というほど生産性が高いので全世界がこぞって採用したからです。

他方、その安全性はどうなったか。遺伝子組み換え技術によって小麦のグルテンタンパクの構造が大幅に変化した結果、激しいアレルギーが起き、腸の粘膜上皮の炎症、腸管のバリアー機能の損傷によって関節リウマチなどの自己免疫疾患、脳障害、神経障害、さらには肥満、糖尿病、高血圧、心臓病などを引き起こすのです。これがセリアック病です。全米で100人に1人という爆発ぶりという。

ここで注目すべきは、遺伝子組み換え小麦が腸の粘膜上皮・腸のバリアー機能を損傷させる点です。

なぜ、腸粘膜が重要かというと、国際自然医学会の森下敬一博士によると、腸の粘膜上皮は「食」という物質から「血」という生命に進化するドラマティックな造血の舞台だからという。その造血の舞台が損傷を受けると、健全な「血」ができようもなく、健全な免疫もまた育ちようもないのです。

また、腸のバリアー機能の損傷は、コロナウイルスの侵入を容易に許すことにつながりかねません。

このように、遺伝子組み換え小麦を常食することは、慢性的にアレルギーのリスクを背負って生きていることと同じになりますので、コロナウイルスを引き込まないためにも、撃退する免疫力を育てるためにも遺伝子組み換え小麦及びそれから作られたパン、パスタその他の食品を可能な限り摂取しないよう心掛けていただきたいと思います。

以上を頭に入れて世界のコロナ感染地図を重ねると、アメリカを筆頭に小麦を主食とする国がずらりと並んでいます。逆に米を主食とする国は比較的少ないことが分かります。(図1参照)

遺伝子組み換え小麦の危険性を指摘したウィリアム・デイビス博士の著書『小麦は食べるな!』の表紙に(図2)の標記がありました。これはまさに、コロナ患者の症状や後遺症を示しているようにも見えてきますし、逆にこのような基礎疾患を持っているとコロナに感染し易いよ、激症化し易いよと言っているようにも見えてきます。

パンは含有水分の関係から喉の通りが悪く、バターやミルクそれに肉類がつきもの。和食の大豆・魚に比較して脂肪の質が悪いのが問題。これが生活習慣の原因ともなり、また医療費増大の一員ともなっています。

だからこそ私達にできることは、コロナ禍の中、欧米食を止めて伝統食(和食)に戻り、本来の自己免疫力を取り戻すことが生活習慣病の予防に留まらずコロナの予防にもつながることを理解する必要があると思います。』

リウマチの患者さん

 

50才代の女性患者さんが、初めて来院されました。この方は30才代から全身のリューマチになられ、苦労されておられます。そこで、山元勝敏先生の著書「あきらめなければ、痛みも、麻痺も、必ず治る!」の関節リウマチの患者さんの症例を記載し、治療方針を確認しようと思います。

『YNSのリウマチ治療の体験談を読んで、香港から来院。2年間、苦しんだ痛みが改善された

「関節リウマチ」で体中に痛みがあり、とくに腰の強い痛みを治してほしいと治療に見えた患者さんです。日本の方ですが、現在住んでおられる香港から、ご主人と一緒に来られました。

「実は、リウマチの治療体験記の本を読んでいたら、先生のところでリウマチの痛みが治ったと書かれているのを見て、香港から飛んできました。」

だいぶ前になりますが、同じようにリウマチで体の痛みに悩んでおられた奈良に住む30歳代の女性の患者さんが、3日間、私のところに治療に見えたことがあります。1回目の針で痛みは軽減し、翌朝起きたときに、すっかり痛みや消えていたことから、大変に喜ばれて、「なんで効くんですか」「どうやって見つけたんですか」といろいろ質問をしてこられた、とても楽しい患者さんでした。この患者さんは、リュウマチの治療をとても熱心にされていて、自分で体験談をまとめ本を出されていたのです。

香港から日南まで治療にこられたのは、この本を読まれての事でした。2年前に関節リウマチと診断を受け、その後もずっと強い腰の痛みに苦しんでおられたそうです。1回目の針で、痛みはだいぶ改善し、日南に一泊された翌日の2回目の治療で全く痛みがなくなり、大変に喜ばれて香港に帰られました。

私のところには、リウマチの患者さんも多く見えます。リュウマチには痛みだけでなく、手の指が固まってしまう硬直の症状もあります。私はYNSAの長い研究の間に、頭部だけでなく、体の部位にも症状を改善する店を発見してきました。

足のふくらはぎのやや下あたりに発見した点は、手の指の硬直の改善にとても大きな効果をもたらします。針をした直後に固まった指がパッと開くという、患者さんも大変に驚かれる反応があるのです。YNSA』によるリュウマチの治療は、痛みにおいても、硬直においても、治療を続けることで大きな改善が見られます。

ギックリ腰

1月下旬に3日間昼夜逆転する仕事が入ったためか、普段は快便なのに便秘になってしまった40才代男性患者Bさん。1週間前ギックリ腰になってしまいました。今回が初めての来院です。

「寒くなって、血流が悪くなるとギックリ腰になる方がおられますね・・・・それと、肉体的、精神的なストレスで、右の骨盤が上がって左足の方が長くなっている場合が多いんです。」

「そうなんです。ズボンの長さが左右全然違うので・・・・」

「そうしたら、長さをはかってみましょう・・・・・やはり、左の方が2.5cmほど長いです。ギックリ腰の原因の一つは、この骨盤のズレですね。」

という訳で、操体法を3回行い調整しました(今回は、操法省略)。何故、右骨盤が上がる傾向があるか?・・・・それは、ストレスによる腸管膜根(ちょうかんまっこん)の縮みにあります。腸管膜根とは、小腸の根元で左腰椎から右仙椎に斜めに存在し、ストレスにより右仙骨側が縮み上がる傾向があるのです。2.5cmのズレと寒い冬での昼夜逆転仕事、これらは、ギックリ腰の要因でしょう。

合谷診:左(左側を診断します)

膝診:左頸椎#2、#7(2)、左胸椎#9、#12(2)、左腰椎#2~#6(2)

首診:左腎(1)、胆(1)、三焦(1)

:右大腸(1)

(   )内は置鍼数

Aさんのギックリ腰は右側です。上記の置鍼で右大腸の置鍼がずいぶん効いたようです。ギックリ腰の痛みが半減しました。次に第5腰椎ねらいで耳周辺の治療点に2本置鍼。これで、来院した時10だった痛みが3になりました。その3日後に再来院され、治療完了となりました。

百人の名医

鍼灸師として治療していて、つくづく感じるのは、カラダの治ろうとする健気(けなげ)な姿勢です。その姿勢に導かれながら、治療が行えるのです。特に山元式新頭鍼療法(YNSA)は、患者さんに診断点や治療点の痛みを伺いながらの協同作業なので、お互いが患者さんのカラダを通して、その時々の反応を感じ取ります。この反応こそが、カラダが良くなろうと向かうベクトルなのだと思います。

山元敏勝先生の著書「あきらめなければ、痛みも、麻痺も、必ず治る!」にその本質が書かれていますので抜粋いたします

『体は、自分で自分を治療する力を持っている

人間の体は、つねに「元気にしよう、もっと元気にしよう」という方向に向かって、さまざまな機能を働かせています。

針の効果をご説明したときに、人間の体は、モルヒネと同じ働きをして、痛みを止める「エンドルフィン」という物質をつくり出せることをお話ししました。このほかにも、人間の体は、心筋梗塞や狭心症の治療に用いられる、「ニトログリセリン」と同じ働きをする「EDRF」と言う物質を作り出すこともわかっています。

最近では、痛みを軽減させたり、精神を安定させたりする「オキシトシン」というホルモンが体をなでるだけで分泌されることもわかってきました。私たちの体は、体にトラブルが起きると、それを治療する物質が分泌されるようにできているのです。「医学の父」といわれる古代ギリシャのヒッポクラテスは、「人間は誰でも、体の中に100人の名医を持っている」と述べています。

体が持つ、自分で自分を治療し治す力、つまり、「自己治癒力」は、驚くべき力を備えていて、痛みであっても、体の不調であっても、うつ病やパーキンソン病の症状があっても、そして麻痺であっても、改善させる力を備え持っています。

YNSAの針の役割は、その力を引き出すに過ぎません。症状を改善させているのは、自分の体自身なのです。』

新しい試み

 

4年前から通院されている60才代の女性患者Cさん。4年前は右股関節が痛くて、夜中眠れない日々が続きましたが、半年の治療で股関節の痛みはなくなりました。そして、3年間は週に一回のペース、最近は2週間に1回のペースで通院され体調管理をされています。Cさんには、頭の鍼、足の灸、操体法など様々な治療法を行っています。前回は操体法のみの治療で調子が良かったので、今回は操体法と山元式新頭鍼療法(YNSA)の新しい組み合わせを行なってみました。

いつものように、合谷診(親指と人差し指の間の触診)、膝診、首診を行い本来なら頭に鍼を刺すのですが、その代わりに中指を軽く触れる操法をおこないました。今回のCさんは、右大腿部前面に痛みがあります。それがずいぶん効きました。

「OKグーグル、タイマー2分半お願いします。」

「おっしゃっている意味がよく分かりません。」

「・・・・OKグーグル、タイマー2分30秒お願いします。」

「はい、2分30秒ですね・・・・ではスタート。」

こんな感じで、Cさん頭の治療点に8カ所、2分30秒指先を頭皮に軽く触れるだけの操法をしました。その結果、右大腿部前面の痛みがなくなりました。ところが、右仙骨に痛みが出てきたのです。この指を軽く触れる操法をしていると、過去のケガなどがタマネギの皮をはぐように出てくる事が数多くあります。

「先生、思い出しました・・・・もう、10年ほど前のことですけど、引っ越しの最中に脚立から落ちて仙骨を打って・・・それから、家族は私が高いところの物を取りに行こうとすると、やめてやめてと言うんです。そのあとです、エアロビクスをした2~3日後、股関節痛で眠れなくなったのは・・・・・仙骨を打ったのが原因なのですね。」

「そうだわ・・・その通りですね・・・・あれ?カルテには、階段から落ちたとありますが・・・」

「あれは、脚立から落ちる前のことで、別物です。」

「なるほど。」

そこで、仙骨ねらいで右耳周辺の圧痛点に2分30秒の「指先触れ操法」をおこなうと、痛みがなくなったので治療は終了となりました。今後、Cさんにはこの治療法が良いかも知れません。次回、2週間の経過を伺いながら相談しようと思います。

車椅子が必要なくなった!

山元式新頭鍼療法の創始者、山元敏勝先生の「あきらめなければ、痛みも、麻痺も、必ず治る」から、症例の抜粋です。この症例を改めて読み返すと、診断がいかに大切かが分かります。はたして私の診断は上手くいっているのだろうか・・・・漫然とパターン化しているのでは・・・・と、考えさせられます。明日からの診察は、違っているはずです。

『歩くこともできなかった突然の強い腰の痛みが1回の治療で改善した

腰痛による歩行困難  女性 48才 主婦

突然、腰につよい、痛みが起こり、その痛みで歩くことができなくなった患者さんが、車椅子で、ご家族と一緒にみえました。

「2 、3日前から他の整形外科で診てもらっていたのですが、痛みがぜんぜん止まらないんです」

患者さんご本人も、心配されるご家族も、その様子はとてもつらそうでした。状態を把握するために「ちょっと、立っててごらん」と言うと、左手を診察室の机の上に置き、右手を固定した車椅子で支え立ち上がろうとしたのですが、「痛い、痛い」と顔は痛みにゆがみ、足はやっと「くの字」曲がるように立てるだけで、それも一瞬だけのことでした。

痛みで動くことがまったく困難だったため、MRIはもちろん、レントゲンさえ撮ることもできない状態でした。そこで詳しく診断を行い、がんなども含めて内臓の疾患ではないことが判断できたため、首でYNSAの診察を行いました。

腰の痛みの原因は、とても複雑で、首の骨である頸椎や、また、他の部位に原因があったり、複数の要因が関係しあっているなど、ひと言に腰痛といってもその原因はひとくくりにすることはできません。

この患者さんの場合には、首診で頸椎にかかわる点に反応が出ていたため、頭にある頸椎につながる点を中心に針を刺し治療を行いました。

30分そのまま置いた後、針を抜いて「もう一度ちょっと立ってごらん」と言うと、今度は容易に車椅子からスッと立ちあがることができたのです。痛みも大きく改善されました。

また、診察室内を歩いてもらうと、歩行も問題なく行うことができ、乗ってこられた車椅子がぽつんと置かれている状況を前に、とても嬉しそうにされていました。数日すると、痛みがまた起こる場合がありますが、この患者さんの場合は、この1回の治療で落ち着かれたようです。』

受容

 私が30才代の頃、とある精神科の病院で芸術療法家として、働く機会がありました。その時、月に1回(2回だったかも?)尊敬するU先生の勉強会があり、様々な学びを得ることができました。今こうやって鍼灸師として生活しているのも、必然的な流れだったと思います。

その勉強会で一番記憶に残っているのが「受容」という言葉です。そこで、ウィキペディアの「受容」に関する記述を抜粋してみます。

『受容とは、相手の存在そのものを受け止める事です。元は来談者中心療法(アメリカの心理学者、カール・ロジャーズが創始)の中の1つのスキルで、心理カウンセラーが使う聴き方・関わり方です。

受容は決して相手を否定したり評価しない考え方なので、相手の方に話しやすさを感じてもらえます。受容が形になって現れているカウンセラーは、安心出来る穏やかな笑顔で、その人の側にいるだけで癒される感じがします。

受容の姿勢でかかわる時は、とにかく受け止めます。相手が話した事について

自分の意見は伝えない

良い悪い、評価はしない

アドバイスもしない

具体例を交えて解説します。

具体例

例えばあなたが友人から、

「会社で上司にねちねちと細かい事を言われて、殴ってやろうかと思ったわ!」

と言われたら、受容的な返しは

「ねちねち細かい事言われると腹が立つよね。」

です。こう返すと、自分の気持ちを受け止めてくれた、わかってもらえたと感じられます。

上記の「腹が立つよね」は、相手の気持ちを汲み取った言葉で、傾聴技法では共感といわれています。受容の性質から、共感とセットで使うことが非常に多いです。』

『心理カウンセラーは相談者に受容を感じてもらうために、次のような関わりを心がけています。

相手が安心できる笑顔

姿勢(身体を相手に向ける)

視線を合わせる

相手が安心出来る声のトーンで関わる

安心出来る目の表情で関わる

上記の関わり方で、何を話しても大丈夫ですよというメッセージを態度で現していきます。

受容されていないと感じられる関わり

ありがちなケースとして、話し手の方が自分自身を責めている時に

自分自身を責めるのはよくないですよ。

と伝えると、受容されているとは感じられません。言っている事は正しいのですが、自分を責めている状態のその人自身を否定している事になるためです。

「そういった状態だと苦しいですよね。」だと責めているその人自身の気持ちを汲んでいるかかわりですので、受け止めてもらっている(受容されている)と感じられ、楽になれます。』

私は、鍼灸師であると同時に、心理カウンセラーでもあるということを、忘れていたように思います。今後は、「受容」を基本にすえて鍼灸治療を行いたいと決めました。