視床下部からのブロック注射

70才代の男性患者Aさん、2ヶ月半前から1週間に1~2回通院され徐々に歩く姿勢がしっかりし始めました。当初は、腰が引けヨチヨチ歩きの状態でしたが、背筋が伸び始めました。臀部からふくらはぎにかけての痛みの範囲が1/5くらいに減って来ています。

最近では、デルマトームの図を見てもらい、痛みがどこにあるか確認したあと、耳の前にあるD点の#1~6のピンポイント置鍼を行います。Aさんの場合、右臀部S#3、右L#5にピンポイントで置鍼すると痛みが随分取れました。

「脳幹というところが脳の中央部にあって、ここから神経が腰に向かって走っています。これを中枢神経といいます。その脇に脊髄神経という末梢神経が、頸椎から8本、胸椎から12本、腰椎から5本、仙骨から5本、尾骨から1本の合計31本出ています。その神経の影響を受けている皮膚が地図の等高線のように区枠(くわく)されています。これをデルマトームというんです。例えば、Aさんのお尻の下あたりが痛いところは、デルマトームではSの3になります。このポイントに神経伝達物質のエンドルフィンを送り込むと、お尻の下の痛みが無くなります。そのスウィッチをオンにする治療点が頭にあるのです・・・・頭に鍼を刺すことで、脳幹の視床下部というところから、ピンポイントでブロック注射をすることになるのです。」

と最近は患者さんに説明しています。

鍼が怖い

鍼で治療をしている鍼灸師として、患者さんが鍼に対する恐怖心を必要以上に抱いていることに、驚くことがあります。

「今日は、鍼をしましょうか?」

の一言で、顔は凍りつきカラダは縮み上がる60才代の男性患者Bさん。

「鍼だけは、やめてほしい・・・まして、頭なんか・・・・・腰とか、背中はあまり痛くなからええけど・・・・鍼は、人から聞いた話じゃと、かえって悪なってしもうた、なんちゅう話をようけ聞くし・・・・頭の鍼だけはやめてください。」

「・・・・よおく考えてください、頭は頭蓋骨に守られて、非常に安全なところです。しかも、頭皮に深さ1mm程度、横に刺すだけなんです・・・」

といっても、Aさんの思考回路は停止しています。

「分かりました、今日もお灸だけにしましょう。」

嫌がる患者さんに嫌がる治療を押し付けることは、絶対許されません。そこで、素早く方向転換をします。前回は、見つけた足の治療点7か所にお灸を15壮し、それが効いたようです。そこで、今回は、左足に8壮、右足に3壮お灸をして、終了としました。

Aさんは、立ち仕事をされているので、腰痛持ちです。

今のところ、腰の痛みはなくなりましたが、継続のためパイオネックス(円皮鍼)を貼ることにしました。

「パイオネックスという小さな鍼を刺しましょう、これは全然痛くありません。」

「何ですか、それ?ピップエレキバンみたいなやつですか?」

「ちょっと違いますけど、0.6mmの痛くない鍼です。」

 

「いつまでつけるんですか・・・風呂に入ってもええんですか?」

と、少々拒絶反応気味・・・それでも、試しに2個貼って終了としました。これで、成果が出れば少しは鍼に対して理解していただけるかも知れません・・・

デルマトームの威力

今年左膝の手術することになっていた60才代の男性患者Aさん、7ヶ月前から通院され、手術を回避出来ました。今では野球の練習も出来、全力で走ることも出来ます。Aさんは毎日ジムに通い、大沼四廊先生主催の自然医学総合研究所から購入したゴムバンドで下肢をグルグル巻きにして、一気に勢いよくゴムバンドを外し、血管内部を掃除しています。また、硬式野球ボールを頭のツボに当てることをしているので、ジムで有名人になっているようです。そんなAはもう1ヶ月に1回だけの通院となりました。

今回は、Aさんにデルマトーム(皮膚分節)を使った鍼治療をしました。

合谷診:左(左側を診断する)

膝診:左頸椎#1(0)、#3(1)、#7(0)、左胸椎#1(1)、#8(1)、左脳幹(1)

首診:左心(1)、左大腸(1)、右三焦(1)

(   )内は置鍼数

上記の基礎、応用治療終了後、イスに座って左下肢が、あぐらをかくような体勢取ると、Aさんの左膝にまだ痛みがあります。そこで、右腰椎4番(デルマトームが右膝をにかかっているため)の置鍼を耳の前(D点4番)に置鍼。

「Aさん、これでどうですか?」

「・・・痛くない!」

あぐらをかいても全く痛くありません・・・デルマトームの治療を私の治療法にもう一つ追加することが出来たようです。

頭に鍼をさすと・・

 

 

なぜ、頭の鍼が効くのか?

私は、患者さんに説明していませんでした、不勉強でした。名著「あきらめなければ、痛みも、麻痺も、必ず治る!」を読み返し、学生時代の資料、教科書で調べていくと、徐々に分かってきました。ポイントは、神経伝達物質とデルマトーム(皮膚分節)。

神経伝達物質というホルモンは、血液を介して運ばれますが、急を要する時は、視床下部から中枢神経をへて脊髄神経(末梢神経)へと運ばれます。この神経伝達物質というのは、50種類以上あり、その中でも「脳内モルヒネ」と呼ばれるエンドルフィンは、視床下部から出て痛みを止める働きがあります。この時エンドルフィンを運ぶ場所を予測するのはデルマトームです。デルマトームとは簡単に言うと、どこの脊髄神経で障害が起こっているのかを教えてくれる「地図」のようなものです。この「地図」を活用するには、脊髄神経を知ることが重要です。脊髄神経は頸椎から8本、胸椎から12本、腰椎から5本、仙骨から5本、尾骨から1本の合計31本あります。これらの脊髄神経が通っているところの皮膚に痛みやしびれを感じれば、「地図」を読み取るように脊髄神経が具体的に分かります。

2日前、60才代の男性患者Aさんの右親指治療をしました。普段は、C点と呼ばれるオデコの右側に置鍼をするのですが、今回は、デルマトームを使って治療しました。右親指はデルマトームでは、頸椎の6番からの脊髄神経と「地図」が読めます。そこでCさんに口を開けてもらい、耳の前に出来た凹みのC6治療点に置鍼をしました。

「これで、どうですか?」

「・・・・いいんじゃない。」

この1本で親指の痛みが取れました。これからも、このデルマトームを一つの羅針盤として活用しようと思います。

追伸:名著「あきらめなければ、痛みも、麻痺も、必ず治る!」に下記の言葉がありました。

原因のある部分とつながるYNSAの点(診断点)から情報を受け取った脳が治療すべき確かな場所(治療点)に治療に必要な確かな命令を送っているといえます。

デルマトーム

不勉強を痛感しています。山元敏勝先生の著書「あきらめなければ、痛みも、麻痺も、必ず治る」をじっくり読むことをしていませんでした。先生のおっしゃっておられることを、しっかり理解していなかったのです。山元式新頭鍼療法(YNSA)は、神経伝達物質がポイントです。私はこれをあまり理解していなかったようです。

YNSAの即効性と鍼麻酔(山元先生は、鍼麻酔で意識のある患者さんの手術を2000例されています)の関係が分からなかったのですが、先生の本を読むうちに徐々に分かってきました。神経伝達物質を出すところというのは、脳幹という頭の中央部にあります。その中で視床下部というところから下垂体というスポイドの様な形をした物がぶら下がっています。ここから様々な神経伝達物質が出ています。生命活動を維持するための大切な部位が視床下部で自律神経の最高中枢になります。体温調節、本能行動の中枢、情動行動の中枢、体内リズムを司っています。

何とYNSAは、この重要な視床下部に働きかけているのです。これは、ハーバード大学をはじめとする各国大学でMRIを駆使して、置鍼した時の視床下部の変化や、神経伝達物質の動きなども解明されているようです。脳幹から出た中枢神経は尾骨まで伸びて、その間に31の脊髄神経(末梢神経)がカラダを巡っています。そして、その脊髄神経の感覚神経と、その神経に支配される皮膚領域は定まっています。これを皮膚分節(デルマトーム)といいます。また、筋肉に対する感覚神経の分布も規則的になっています。これを筋分節といいます。

山元敏勝先生は、このデルマトームと筋分節を理解して、鍼麻酔をされたのだと思います。例えばおへその上を鍼麻酔しようとすれば、胸椎9番にあたる治療点に置鍼をされるはずです。置鍼する箇所は眉毛の上にあります。すると、神経伝達物質(脳内麻薬といわれるエンドルフィン)が9番の脊髄神経まで運ばれておへその上に痛みを感じない部位ができるのではないかと思います。

神経伝達物質と鍼麻酔の関係を、デルマトームを通して理解したような気がするのですが・・・違うかもしれません。

一灸入魂

一灸入魂

「お灸の効果があって、次回もお灸でやって欲しい。」という声を聞くことが最近増えてきました。そして、私の姿勢が、大切であるのでは?と考えるようになりました。これは何となく感じただけなのですが。以前は、右脚をなげだしてお灸をしていたのです。これの方が楽だったからですが、お灸を受ける患者さんからすれば、しっかりアグラをかいて三角形を作った状態の私からの施術を受けたいはずです。

それで、最近アグラをしてお灸をしています。まだ、はっきりとは言えませんが、効果があるように感じます。そこで、今日の患者さんの声を上げてみます。

お灸2壮して、

「あんなんで、効くん?・・・・やわらかなっとる。」

お灸1壮して、

「ちょっと違う。」

その後、2壮して

「良くなった。」

2壮して、

「ゆるくなっとる。」

その後、1壮して、

「触った感じが違う。」

このように、少ない壮数で、しかも熱さをほとんど感じないお灸が出来ています。今後ともこれを続けてみようと思います。

お灸効くなあ

1週間前から腰痛で、3ヶ月ぶりに来院の70才代男性患者Bさん。農作業を早めに終えて、来られました。

「ちょっと、1週間詰めて通おうと思う・・・慢性化して痛いんよ。」

合谷診:左(左の膝診を行う)

膝診:頸椎#3(2)、胸椎#11(1)、腰椎#2(1)、脳幹(0)、大脳(1)

首診:左腎(1)、左膀胱(1)、左肝(0)、左胆(1)、心包(0)、心(0)、大腸(0)、三焦(0)、脾(1)、

右腎(0)、右膀胱(1)、右脾(1)、右小腸(1)

(   )内は鍼の数

上記の置鍼13本を終えて、ある程度腰も軽くなったので置鍼30分の間に、見つけた足の治療点へお灸をすることにしました。来年のYNSA学会では、検証例を多くして発表出来るようにしたいと思っています。また、現在は上腕診はやめて、膝診のみを行い成果を出しているので、この発表もするつもりですが、発表の仕方がよく分からないので、心配です・・・まあ何とかなるか。

お灸の良さは、患者さんと雑談しながら施術できることにあります。

「柴犬は、メスが体高35~38cm、オスが38~45cm。それより小さいのが豆芝で豆芝という種類はないんよ。メスはキツネ顔、オスはタヌキ顔がええんよ。」

「ええ・・・そうなんですか、知らんかった。」

「メスは、スーッと面長。オスはチョットエラが張った感じがええんよ。」

「なるほど、ネコもそうなりますね!」

「朝、夕散歩1時間ずつ、好きじゃないとやれん。」

などと、話が弾んでいき野球、バスケットボール、卓球の話・・・と続くのです。

「ところで、今腰の状態どうですか?」

「・・・・・ええ感じ、お灸効くなあ!」

「結構、効くでしょう!」

左右の足に合計9壮し、内訳は全く熱さ感じない1壮、少し感じる4壮、気持ちいい3壮、熱い1壮。

「今日来た時の痛さが10じゃったら、鍼の後、お灸の後はいくら位になりますか?」

「10から8、8から2。」

お灸が効いているのが分かり嬉しいのですが・・・鍼の技量をあげなければと、感じたのです。

 

足灸療法

今年の11月に山元式新頭鍼療法(YNSA)学会がリモートで講演会や発表があります。見つけた足の治療点の発表と上腕診の代用、膝診の発表をどのようにすれば良いのか、今年の発表を見て、それらを参考にして、来年は出来れば2つの発表をしたいと思います。

現在、上腕診(肘内側の触診)をしないで、膝診のみで行っているため、その正確さは上腕診以上にあると思っています。足の治療点に関しては、治療点を見つけるというよりも、発想の転換。その結果、成果が出ているので、その詳細説明が必要となります。試行錯誤しながらも、お灸だけの熱くない治療なので患者さんには好評です。今後、来年の発表に向けて「足灸療法」と勝手にネーミングしてまだまだ新たな治療点を見つけて行こうと思います。

現在、3人に「足灸療法」を施術していますが、今日ピッタリの患者さんに出会いました。以前にもご紹介した70才代の女性患者Aさん。非常に感覚が鋭いので、仰臥位のAさんの足に

私が指で触れていると、「カラダに水が流れている!」と突然喋り始めた経験があります。

今回はお灸を24壮中、18壮は全く熱さを感じない火加減だったにも、かかわらず良くなりました。

そして、途中から様々なところにしびれる様な感覚が、膝下、膝上そして、頭に出てきました。そして、モグサに火をつけると、

「・・・あれ?お椀がかぶってた感じだったのが、パッカッと開いてしびれる感じが無くなった。面白いね・・・私、お灸が合っていると思う。」

「今のお灸は、肝臓治療点です。」

「心当たりある、私色々なお薬を飲んでいるから・・・・」

次回からもAさんにはお灸施術で色々な発見をしていきたいと思っています。また、新たな足灸に適した患者さんを探して行こうと思います。

むずむず脚症候群の解説

 

山元式新頭鍼療法の実践ガイド YNSA症例集より、加藤直哉先生のむずむず脚症候群に関する記述を載せます。

『むずむず脚症候群(Restless Legs Syndrome:RLS)は、今から70年以上前の1945年にスウェーデンの神経学者エクボン博士によって提唱された疾患である。じっとしていると湧き上がってくるような不快感があり、足を動かさずにはいられない、夜に症状が強くなる、動くと症状が軽くなるといった特性がある。安静にしていると、居ても立っても居られなくなる場合も多く、人によっては、不快感のため睡眠に支障をきたし、明け方まで眠ることができない場合もある。

疫学的な調査で患者数がとても多いことが知られており、わが国の患者数は200~400万人(人口の3~5% )、欧米ではさらに多く、全人口の5~10%の患者がいると報告されている。

今後、さらに多くなることも予想される疾患であり、臨床でも遭遇する可能性が高いRLSの一例を報告させていただく。

むずむず脚症候群の原因は盛んに研究が進められている。まだ完全に証明されてはいないが、現在、ドーパミン機能障害が原因の1つと考えられている。

ドーパミンは神経伝達物質の1つで、やる気や感情だけでなく、筋肉などの運動や、数々の感覚の信号を伝える役割を持つ。このドーパミンがうまくパフォーマンスしてないことが、RLSの原因の1つだと考えられている。実際、RLSは安静になると症状が強くなり、足を動かしたり、マッサージしたり、動き回ると症状が軽くなると言う特徴がある。これは運動によって即時的にドーパミンの分泌が増えるためと考えられており、この現象からもドーパミンが関わっている事は間違いなく、本症例ではでもドーパミンの改善作用を持つビ・シフロールが処方され、1部改善がみられていた。

このことを踏まえた上、RLSの治療にYNSAは非常に相性が良いと考えられる。まずは脳点の治療によってドーパミンの放出量を改善できる可能性があるからだ。実際、ドーパミンが関わる疾患で有名なものにパーキンソン病があるが、今回の症例集でも示したようにYNSAによってパーキンソン病の症状が改善したと言う報告が多い。また脳幹から脊椎に至る自律神経の調整、下肢そのものの治療点としてのI・J・Kソマトトープの治療における下肢の改善などがさらに、その可能性を高めるだろう。』

むずむず脚症候群

「先生、5時間眠れるようになった。ワシにとっては、5時間で十分・・・・足のムズムズもピタッと無いなった・・・ほじゃけん、今日で治療終了してもらえますか?再発したら、また来ます。」

「そりゃあ良かった!お灸が効いたんですね。」

「そうそう、あれが効いた。」

足に見つけた治療点に紫雲膏をたっぷり塗って、その上に大きめのモグサを乗せ火をつけるお灸治療。これは、ほんのりと熱が伝わるか伝わらないか位の刺激ですが、効きます。70才代の男性患者Aさんには、両足に10壮ずつお灸をしたのです。Aさんは、マジックペンで印をつけた治療点にテープを貼りお風呂に入るそうです。そのため1週間経った今日も、青マジックペンの跡がしっかりとあります。薬局で買った「せんねん灸」をここにしているそうです。

お灸の良さは、会話にあります。鍼治療の場合は、鍼を刺入している時に会話は出来ませんが、お灸の場合はお灸をしながら、会話をゆっくりすることが出来ます。またモグサの焼ける香ばしい匂いで落ち着きます。研究熱心なAさんは、色々と質問をしてくれます。

「先生、この鍼というのは、やっぱり中国から来たもんですか?」

「いいや、この鍼は山元式新頭鍼治療いうて、宮崎のお医者さんが作ったもんで、ドイツ、アメリカ、ブラジルではすごく普及してるんですよ。1973年に日本で発表したんですけどね、あまり反響が無かったんです。逆に海外のお医者さんが興味をもち・・・・とくに、ハーバード大学の研究所では、鍼を打って、MRIで脳の変化を資料として残したり・・・医師の国家試験にこの鍼(YNSA)が出たりするんですよ。日本では、2013年にやっと学会を立ち上げて、少しずつ普及している感じです。」

「ハーバード大学いうたら、世界一の大学。」

「そうなんです。その大学の先生が、宮崎まで何回も勉強しに来ているんですよ。」

などと、会話がはずみます。それにしても、山元敏勝先生が日本で発表して40年後にやっと日本で学会が発足・・・・その間に、海外では数十万人の医師がYNSAを研修され、実際に数万人の医師が治療をしているのです。この気の遠くなるような日本の遅れ様に失望してしまいます(日本では、医師が少なく鍼灸師が9割程度です)。

まあ失望ばかりしていても仕方ありません。Aさんのむずむず脚症候群(Restless Legs Syndrome:RLS)について「YNSA 症例集医道の日本社」で、私の師匠である加藤直哉先生が記載した個所があるので、明日ご紹介します。