山元式新頭鍼療法(YNSA)の創始者山元敏勝先生が、YNSAを見つけるきっかけが描かれています。
『ちょうどその頃、中国の頭鍼療法に関する発表がありました。中国式の考えにもとづいた頭部の領域に針を刺す治療法で、麻痺などに効果をもたらすというものでした。私はこの新しい治療法に大変関心を持ち、その方法を学び、治療に取り入れました。しかし、私の中では期待するほどの効果を得られないでいました。
ちょうどその頃です。1章でお話しした、とても敏感な感覚をお持ちの患者さんが、私のもとにみえたのです。脳梗塞による半身麻痺で、左手と左足には感覚がなく、全く動かすこともできません。この患者さんに、中国の頭鍼療法で効果をもたらそうと、必死に頭部にそのツボとなる場所を探していたときです。髪の生え際あたりにふれると、患者さんが麻痺が起こっている左手に何かを感じると言い、そしてわずかに動くということが起こったのです。この偶然をきっかけに、私は、特に体や内臓、脳の部位一つ一つとつながる点を発見しYNSAと言う治療法を確立していったのです。
このつらい痛みがその場でぴたっとおさまるYNSAの治療はたちまち評判となり、病院は体のあちこちに痛みを抱える多くの患者さん達であふれかえりました。当時は病院の隣に消防署があったのですが、病院だけではトイレも足りず、患者さんたちはみな消防署にトイレを借りに行っていたほどです。
私自身も休憩はもちろん、食事をとることさえ難しく、しかし自分が倒れてしまっては治療ができません。いよいよとなった時には病院の裏に車を回し、食事のためにほんのわずかな時間、芸能人さながらに抜け出したこともありました。
私は、地元の皆さんの痛みやつらい症状を救いたい、そういう思いでドイツから戻り、この日南に病院を開きました。ですから皆さんが辛い症状から解放され喜ぶ姿を見る事は、何より嬉しい事でした。そのため私は日曜も祝日も休まずに診療を行い、夜中に具合の悪い方が来られても決して断ることをしませんでしした。
病院には農作業で痛みを抱える人々ばかりでなく、神経痛の痛みを持つ人、リウマチの痛みを持つ人、捻挫をした人、骨折をした人、パーキンソン病の人、麻痺のある人、ありとあらゆる症状を抱える人たちがみえるようになりました。「明日試験があるのに頭が痛くて勉強ができない。先生助けて」そんな中学生までいました。
1日に病院に来られた方はほぼ200人、特に300人を超えることもありました。そのような日が1ヵ月、1年、何十年と続きました。今日まで計算をしても、150万人を超えます。
中にはさまざまな理由から治療の継続が難しく、期待する目標まで効果が届かなかった患者さんもおられますが、このように多くの数の患者さんの痛みやつらい症状、そして麻痺を改善できた事は本当に嬉しいことです。』
150万人の患者さんを治療し、その患者さんのカラダの声を聞き続ける山元敏勝先生の姿勢が、治療家のお手本です。このことを、肝に銘じます。