達人の眼力

 

「触れる時は、指の腹で触れるんよ。」

これは、友人からのアドバイスです。野口整体を若い時から勉強していた友人が、野口晴哉先生の口伝を教えてくれました。患者さんの皮膚に触れる時、一番繊細な指先を使っていた私には、「ハッ」と気づく助言でした。確かに自分自身の頬に、軽く指の腹を置くのと、指先を置くのとでは、優しさが違います。「お腹」の方が気持ちいいのです。

この瞬間感じたのは、達人の「部分に全体を見る眼力」でした。野口晴哉先生は、指先にカラダ全体を見ておられたはずです。指の第一関節から指先までがカラダ全体で、カラダの「お腹」=丹田が、指の腹に位置するのです。指の丹田を通して患者さんのカラダと施術者が優しい交感を行うことができるのです。

話変わって、山元式新頭鍼療法(YNSA)の創始者・山元敏勝先生(89才)の宮崎セミナーに参加した時のことです。私が、YNSAの初級コースを学ぶ以前のころでした。何も知らない私にとって、山元先生の施術を見ることだけで、ワクワク、ドキドキの連続でした。ところが、「少し変だなあ?」と初心者なりに感じることがありました。それは、全ての置鍼(腰、胸、首などの治療点)が、オデコの中央部だけというテキストのどこにも記述されていない個所だったからです。さすがに長年勉強されておられる先輩方も、しびれをきらし、

「先生、なぜ腰の治療なのにそこに置鍼するのですか?」

と、質問されました。先生は、しばらくポカーンとしたままで動かなくなりました。そして、

「よく分からない・・・・・・・でも、ほらココ(オデコの中央部)に渦巻いているでしょう!」

とおっしゃったのです。これこそが、達人の眼力。山元先生は、オデコをカラダ全体として見ておられたのです。治療をする上で、このことを理解し体現することが必要なのです。